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ファッションは文化だと信じるオールドタイプのアパレル オーバー30 東京、ロンドンと来て今は仙台在住 趣味イス集め 長男 きまぐれ 温泉ずき。


by akatycoon03
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ハッピーフライト?

あるひとのサイトで見つけた、小説っつーかなんつーか、、あんまりおもしろかったんで貼ります(著作権とかあんのかな?)
ちょっと長いけどお時間ある方はどうぞ。損はさせません。









機内はほぼ満席の状態で、夏休みは終わったはずなのに、小さなこどもがいっしょの家族連れや、大学生らしきカップルの姿も多かった。
うきうきとした幸せそうな声があちらこちらから聞こえてくると、僕は思わずため息をついた。
 
これから福岡まで飛んで、ほとんど徹夜で実験して、明日の最後の便で帰ることになっていた。
連日の泊り実験ですでに疲れはピークに達していたけれど、移動時間も書類を作るためパソコンを叩いた。久しぶりの飛行機は気流が安定せず、機体が大きく揺れてなかなかはかどらなかった。
ベルト着用サインは点灯しっぱなしで、CAたちも発着陸用の席に座り、シートベルトを締めていた。


僕の席は出入り口に比較的近く、こちら向きの席に着いているCAの子が前席のサラリーマンの肩越しによく見えた。平均年齢の高そうなこの機内にいるCAの中で彼女はおそらく最も若く、そして間違いなく一番美しかった。


深い青の制服に身を包んだ姿は一分の隙もなかった。
ブラウスの色と境目がわからないほど白く、細い首元を柔らかな藤色で縁取られたスカーフが守るように包んでいて、清廉なCAのイメージをより一層神聖なものに見せた。


アップにした髪は控えめな髪留めで高い位置にまとめられ、あごの高さで切りそろえられた髪は こどものように健康的で細く、つやつやとしていて、とても希少な金属の束のように見えた。両足をきちんと揃え、背筋がしゃんと伸び、乗客の不安を取り除こうと流れるアナウンスにうなずいて、ゆっくりと周りを見回す姿は、他の比較的ベテランのCAが微笑みを浮かべながらあたりに目を配っているのに比べ、いささかクールな印象を抱かせた。


要は、なんか冷たそうな美人といった印象。 


本当にそういう性格なのかもしれないし、あるいは、そう、誤解されやすい子なのかもしれない。まだあまり仕事に慣れていないことを悟られまいと背伸びをしているようにも見えた。


彼女は心から笑ったりするのだろうか。どうすれば彼女を心の底から喜ばせることができるのだろうか。
それはきっと僕のような学生には到底不可能な手段でなければならないのだろう。勝手な考えを巡らせていると、テレビや雑誌で見る「匿名客室乗務員が芸能人、スポーツ選手、医者、商社マンと合コン」のような極めて下世話で、嫉妬混じりの見出しが浮かんだ。
あきらめの感情がさっと熱を奪い、それと同時に、いわゆる勝ち組の職についた何人かの優秀な同級生の顔と、彼女が腕を組んで歩く姿が頭をよぎった。


ようやく気流が安定したらしく、ベルト装着サインは消え、飲み物が配られた。僕はブランケットと温かいスープを頼み(担当してくれたのは彼女ではなく、上品な、それ相応の年の別のCAだった)、それを飲むと、しっかりとした眠気がやってきた。足の方から重たく、シート全体に沈みこむように僕は眠った。


**********************


「お客さま」先ほど飲み物をくれた年配のCAの上品な声で目を覚ますと、飛行機は着陸準備に入っていた。僕は背もたれをもとに位置に戻し、エコノミーなひどい体勢で固まった身体をほぐしながら伸びをした。

身体のあちこちをゆっくりと伸ばしながら、前のほうの席を見ると、さっきの綺麗なCAは神経質そうに小さな紙に何かを書き込んでいるようだった。眠い目をこすり、眼鏡をかけて観察してみると、どうやら彼女は手紙を書いているようだった。


何色もあるペンを使い分けてその手紙を書き終わると、今度は紙を上にしたり横にしたりしながら悩みだした。
どの位置にシールを貼りつけるのが最も合理的で、人間の美的感覚に訴えるのか。注意深く計算しながら、その作品を仕上げようとしているように見えた。


僕の隣に座っていた若い男が「あれ、なんか手紙書いてんの。トイレ行く時見えたんだけどさ。公私混同じゃない?かわいいからって。誰も注意しないのかね」と言った。
そうですね と、適当に相槌を打つと、なんだか急にどうでもよくなって、僕はまたブランケットを肩までたくしあげて目をつぶった。


そんなに一生懸命にならなくても。想像した彼氏にお門違いの嫉妬をした。


エンジンの音がやけに大きく感じた。じきに飛行機が着陸して乗客がそわそわと動き出し、目をあけると、彼女はもうどこにもいなくなっていた。


**********************


帰りは最終便になった。

へとへとで、水を吸った布団みたいに重たい身体をなんとか飛行機に押し込んだ。これじゃあ荷物とほとんどかわらないと思いながら時計を見る。22時だった。


羽田に着くのが23時過ぎ、アパートに戻れるのは日付をまたいだころだろうか。明日も朝早くから大事な測定の予約が入っていた気がする。疲れて疲れて頭がずきずきと痛む。


ひどく眠いのにどうしても目が冴えてしまう。しばらくぼんやりとしていると飛行機は動き出し、高度はぐんぐん上がっていった。
いつものように耳とあごの奥の空気が圧迫され、背もたれに頭を押し付けられた。なんだか体中の穴にコチコチに固まった空気の塊を押し込められているような気がした。


行きの便とは打って変わって、乗客の数はまばらだった。平日のこんな遅くに好んで移動したがる人なんてそういないんだろうな。とか、こんなにすかすかな飛行機でも飛ばさなくちゃならないのは大変だなあ。とか、でもそんなことより、この帰りの飛行機のCAの方が平均的に若いような気がする。
まあ行きで見たあの冷たそうな子がダントツで可愛かったな。とか。そんなことを考えていると


「お客さま」後ろから声をかけられた。



振り返ると行きの飛行機でみた、その綺麗で冷たそうなCAだった。



不意に思い浮かんだ顔が目の前に現れて、頭の中身を覗かれたような気持ちになる。今にも「冷たそうで悪かったわね」と、言われそうで、鼓動が速くなる。


しかし彼女は、この前の神経質な表情ではなかった。


少し頬を赤らめて、はにかみながら、落ち着かないように目を伏せたり、こっちを見たりして、そして僕の隣に膝をついた。




「あの、本日お誕生日とお聞きしまして」




えっ? あ  僕は自分の誕生日のことなどすっかり忘れていた。そう言えばマイレージカードにそういう情報を記入したかもしれない。



「えっ。ち、違いましたか?」



いい、いいえ。違いません。そうです。よくご存じで。



「はい…。あの、これ、お誕生日おめでとうございます」



彼女は僕にひと包みのキャンディと、二つ折りのバースデーカードをくれた。



「大切な日に私どもメーメムメー航空をお選びいただき、ありがとうございます」


僕は心底びっくりして。少し言葉に詰まってしまった。


あの、一生懸命書いてくださったのがわかります。ありがとう


「はい」 彼女はにっこりと笑ってくれた。


ほんの一瞬だったけれど、彼女の視線と僕の視線がまっすぐに交差して、彼女は本当に慣れていないみたいで、恥ずかしそうに笑った。
その笑顔は幼くて、かわいくて、僕はだらしなく えへへ と言って、彼女はすっと立ち上がり、息をするのを忘れてしまうくらい、優雅にお辞儀をした。
今までの照れた表情はそこにはなく、普段通りの冷静な彼女に戻って、するりとカーテンの向こうに行ってしまった。


彼女がくれたカードにはピンクや緑のペンで、お祝いのカードにしてはいささか生真面目すぎる、国語の先生みたいに几帳面な字で「お誕生日おめでとうございます」から始まるお祝いのメッセージが書いてあって、飛行機のシールが少し、傾いていた。 行きの便で見たのはこのカードだったのだ。

最後に、日付と行き先、そして天気が書き込まれていて、一行あけて


おかえりなさい。行きのフライト、けっこう揺れましたよね。帰りはゆっくりお休みください。とあり、携帯電話の番号が書いてあった。


僕は3回その文面を読み、その時の彼女の表情と、普段のクールな表情を交互に思い返した。




背中から後頭部にかけてびりびりと熱いものが流れ出し、頭の中に、走馬灯のように思い出がよぎった。これまで何度となく、チャンスを逃してきた。
中学生のころ、周りから冷やかされるのが嫌でラブレターの返事を出せなかったこと。高校生のころ、久しぶりに会った幼馴染に告白して「遅いよ」って言われたこと。あの時々で、もっと勇気を出すことができていたら。




今しかない。




今度こそ、僕は“正解”をつかむ。

今、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。気持ちを伝えなくては。すぐに、行動しなくては。




どうする?




これまでにないスピードで頭の回転が加速していく。





彼女を探した。彼女はちょうど向こうのトイレから出てきて、再びカーテンの中に消えた。


チャンス。


シートベルトを外し、席を立った。



一直線に彼女が去って行ったカーテンの近くのトイレに入った。落ち着いて鍵を締め、急いでズボンを下ろし、まだ温かい便座に直に座った。












ヌいた。










ハッピーフライト?_a0140198_1322789.jpg


私服か?
by akatycoon03 | 2010-02-07 13:19 | おもしろい!